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角田騎手と猪熊広次氏とのいい関係

今週末は2歳馬最初の重賞、函館2歳Sが行われます。このレースに出走を予定しているのが小笠厩舎所属のドナルドバローズ号。父ボストンハーバー・母父ラムタラの牡馬です。新馬戦は三浦騎手で快勝しましたが、三浦騎手は当日関屋記念スマイルジャック号騎乗のため新潟へ遠征、乗り替わりになります。そこで騎乗するのが、先週小倉記念を制した角田騎手。毎年夏は小倉を主戦場にする栗東所属の角田騎手が、重賞とはいえ美浦所属の2歳馬のために札幌へ遠征します。いかにも不自然な乗り替わりですが、春のクラシックを御覧になった方ならすぐわかる通り、馬主である猪熊広次氏の意向が大きく働いたのでしょう。
冠名バローズの猪熊広次氏の所有馬といえば、少し前までは07年富士S2着のマイケルバローズ号でしたが、現在は今年の東京優駿3着でありシンザン記念勝馬でもあるアントニオバローズ号が真っ先に挙がるでしょう。その主戦が角田騎手であります。とはいえ、両者の付き合いは決して長いものではありません。猪熊氏の所有馬の騎乗騎手を、騎乗数順に並べてみます。

  集計期間:2003. 1. 6 〜 2009. 8. 2
  ソート:総数順
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順位 騎手      着別度数        勝率  連対率 複勝率 単回値 複回値
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  1  佐藤哲三  3- 9- 3-35/50    6.0%  24.0%  30.0%     27     77
  2  岩田康誠  7- 5- 2-14/28   25.0%  42.9%  50.0%    199    118
  3  福永祐一  2- 1- 3-14/20   10.0%  15.0%  30.0%    132     57
  4  熊沢重文  1- 0- 0-17/18    5.6%   5.6%   5.6%    627    155
  5  幸英明   0- 2- 2-13/17    0.0%  11.8%  23.5%      0     38
  6  渡辺薫彦  0- 2- 2-12/16    0.0%  12.5%  25.0%      0    306
  7  角田晃一  2- 2- 2-10/16   12.5%  25.0%  37.5%     32     91
  8  鮫島良太  1- 0- 0-12/13    7.7%   7.7%   7.7%     16     10
  9  秋山真一  2- 1- 0-10/13   15.4%  23.1%  23.1%    102     54
 10  武豊    3- 2- 0- 4/ 9   33.3%  55.6%  55.6%    163    102
 11  松永幹夫  0- 2- 1- 6/ 9    0.0%  22.2%  33.3%      0     61
 12  中舘英二  1- 0- 0- 8/ 9   11.1%  11.1%  11.1%    160     26
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全出走数は392、通算勝利数は33ですから、角田騎手の騎乗シェアは4%、勝利シェアは6%。預託厩舎の関係(出走の半数は中竹厩舎、次いで藤沢則厩舎、佐々木晶厩舎、武田厩舎)があるにせよ、シェアはそんなに高くありません。角田騎手が初めて猪熊氏所有馬に騎乗したのは2004年6月、次の騎乗が2006年2月、3度目が2007年11月。アントニオバローズ号の新馬戦が5度目の騎乗ですから、実質アントニオバローズ号から始まったと言えるくらいの新しい関係です。実際、角田騎手の挙げた2勝はいずれもアントニオバローズ号のものです。
とはいえ、角田騎手がアントニオバローズ号を高く評価していたのは報道にもあったとおりで、かつて騎乗したジャングルポケット号やヒシミラクル号を引き合いに出して同等の器と評価するほどの熱の入れよう。猪熊氏も相当期待していたのでしょう、東京優駿と同じ舞台となる優駿牝馬にはダイアナバローズ号を送り込み、鞍上に角田騎手を据えました。ダイアナバローズ号は1走前、2走前と勝浦騎手が騎乗しており、1走前は勝浦騎手の手により勝利。勝浦騎手に優駿牝馬での先約があったわけじゃなし、馬を管理する小笠厩舎も角田騎手はそれまで1度乗せたきり、騎乗する理由がありません。どう考えても東京優駿に懸ける猪熊氏の指名であり、コースの予行演習です。この甲斐あり、翌週の東京優駿アントニオバローズ号は3着。初めての重賞をプレゼントされたあたりからそうだったかもしれませんが、これで完全に信頼を勝ち得たものと思われます。
そこへ来て今回の指名。ドナルドバローズ号がどこまで勝負になるかわかりませんし、むしろ苦しいのでは、と思いますが、それでも指名を受けるというのは騎手冥利に尽きるのではないでしょうか。猪熊氏としても、アントニオバローズ号のご褒美と言いますか、レースで勝ってもらうよりもむしろレース後に札幌の街で楽しんでほしいという意味合いで声をかけたのかもわかりませんね(妄想の域を出ませんが)。近年は馬が出世すると結果を出している騎手でも上位騎手に乗り替わり、ということも多い世知辛い世の中ですが、たまにはこういう関係もいいなあと思います。個人的に角田騎手に好感を持っている、という色眼鏡も多少はあるのでしょうけれど。
それにしても角田騎手は「持ってる」騎手ですね。特に運がいい。所属の渡辺厩舎に次いで長きにわたりお世話になった佐山厩舎と突然切れたり(2005年夏〜2007年暮れまで絶縁、突然よりを戻して再度1年以上絶縁中)、転厩が絡んだとはいえ自身の騎乗で結果を出していた名牝・スイープトウショウ号をあっさり降ろされたり、2004年〜2006年は騎乗数及び勝利数が激減したりとしばしば不遇を託っていますが、上昇のきっかけにも同じくらい恵まれている印象です。急な乗り替わりをステップにワールドスーパージョッキーズシリーズ出場を果たしましたし、アントニオバローズ号だって管理する武田厩舎とそれまで密な関係があったわけでもなく、たまたま調教をつける機会があって巡り合ったように思われます。寡黙で営業もうまくなさそうなイメージですが、それでもどこかから手が差し伸べられる、不思議と名馬と巡り合う、というのは、「運」であり「腕」がもたらすものなんでしょうかね。デビューから8年連続40勝以上、デビュー年のGI初騎乗でいきなり3着(14番人気)、GI10勝は伊達じゃないってところですか。
参考まで、角田騎手のクラス別の成績でも。

  集計期間:1989. 3. 4 〜 2009. 8. 2
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クラス    着別度数                            勝率  連対率 複勝率 単回値 複回値
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  新馬     66-  62-  83-  78-  68- 468/ 825    8.0%  15.5%  25.6%     56     68
 未勝利   200- 192- 192- 177- 170-1343/2274    8.8%  17.2%  25.7%     66     75
 500万下  202- 195- 212- 191- 168-1369/2337    8.6%  17.0%  26.1%     71     75
1000万下  122- 104- 112- 123- 106- 809/1376    8.9%  16.4%  24.6%     86     69
1600万下   39-  38-  27-  45-  31- 296/ 476    8.2%  16.2%  21.8%     74     72
OPEN特別   37-  31-  38-  32-  33- 220/ 391    9.5%  17.4%  27.1%     79     75
  G3     23-  18-  24-  19-  20- 133/ 237    9.7%  17.3%  27.4%    127     90
  G2      5-   8-   7-   6-   6-  75/ 107    4.7%  12.1%  18.7%     44     50
  G1     10-   3-  10-   9-   4-  70/ 106    9.4%  12.3%  21.7%     92    132
  重賞     38-  29-  41-  34-  30- 280/ 452    8.4%  14.8%  23.9%     98     90
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重賞になっても率が大きく落ちないというのが凄いですねえ。