中央競馬のためにならない話

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障碍重賞のスピード記録を見てみる

先週日曜京都の障碍オープン戦では、今年から障碍競走参戦の大江原騎手騎乗のモルフェサイレンス号が勝利。有力どころとは斤量差があったとはいえ、直線の末脚には目を見張るものがあり、強豪揃いの暮れの大一番でもひょっとしたら?と思わせる勝ちぶりでした*1。騎乗した大江原騎手はデビュー以来未だ平地競走では勝てていませんが、障碍競走は初年度としてはなかなかの成績で、障碍界に久々に現れたスター候補生。モルフェサイレンス号はオープンでの勝利により、大障碍と言わずとも障碍重賞へはだいたい狙った所へ出られるようになったので、大江原騎手の重賞優勝も現実味を帯びてきました。そこで今回は、障碍重賞の各種記録を見てみて、いま大江原騎手がどの位置にいるか、記録更新できそうかを調べてみました。


まずは何と言っても差し迫ったJ・GIについてです。グレード制導入前については、春秋の中山大障害をJ・GIと同格としました。現役騎手の初優勝時の年齢および障碍何戦目かは以下のようになっています。

騎手J・GI初優勝日年齢障碍キャリア初障碍からの年月
西谷誠99.12.1823歳2ヶ月180戦4年6ヶ月
今村康成01.12.2223歳2ヶ月115戦4年1ヶ月
金折知則00.12.2323歳10ヶ月195戦5年9ヶ月
横山義行98.12.1924歳9ヶ月48戦6年8ヶ月
白浜雄造05.12.2426歳3ヶ月369戦7年8ヶ月
高田潤08.12.2728歳1ヶ月245戦8年11ヶ月
出津孝一97.4.1232歳10ヶ月622戦以上11年3ヶ月以上
※年齢昇順でソート。出津騎手は収録データの都合上不完全データ。


現役でJ・GIを優勝しているのはわずか7人。障碍のキャリアをそれなりに積まなければ中山の障碍重賞は勝てないという感じです。横山義騎手の48戦というのは異常値として、他の騎手は100戦以上の経験を積んでおり、西谷騎手でも180戦して栄冠をつかんでいます。障碍重賞勝利数は現役断然の白浜騎手も、ことJ・GIに関してはけっこう苦労していたようで。最年少記録は西谷騎手と今村騎手の23歳2ヶ月。なんと2人とも23歳2ヶ月3日でのJ・GI初制覇です。
大江原騎手が最年少記録を更新するには2013年の中山グランドジャンプがラストチャンス。更新のチャンスは最高8回、決して無理な数字ではなさそう。初障碍からの年月の最短記録も同レースがラストチャンスになります。キャリア的には現在28戦ですので、横山義騎手超えにはあと20戦。こちらは来年の中山グランドジャンプくらいまで、下手したら今月の中山大障害が最初で最後のチャンスという可能性もありますから少し厳しいでしょうか。


続いて、現役騎手の障碍重賞優勝について、同じように整理してみました。障碍重賞未勝利の騎手は省略。出津騎手はデータが不完全で何とも言えないので、割愛しました。

騎手重賞初優勝日年齢障碍キャリア初障碍からの年月
白浜雄造99.6.1219歳9ヶ月32戦1年2ヶ月
小坂忠士03.3.1520歳1ヶ月67戦1年8ヶ月
高田潤01.7.2220歳8ヶ月41戦1年6ヶ月
林満明87.11.2921歳1ヶ月51戦1年8ヶ月
岩崎祐己04.3.1321歳2ヶ月47戦1年3ヶ月
西谷誠98.3.1421歳5ヶ月102戦2年9ヶ月
金折知則98.11.2121歳9ヶ月123戦3年8ヶ月
今村康成01.12.2223歳2ヶ月115戦4年1ヶ月
五十嵐雄祐07.10.1323歳7ヶ月205戦5年7ヶ月
佐久間寛志08.5.1723歳11ヶ月92戦4年9ヶ月
植野貴也99.7.1824歳0ヶ月32戦9ヶ月
横山義行98.12.1924歳9ヶ月48戦6年8ヶ月
熊沢重文93.5.825歳3ヶ月213戦6年1ヶ月
江田勇亮04.6.1225歳9ヶ月161戦6年10ヶ月
簑島靖典08.8.2325歳9ヶ月193戦6年6ヶ月
穂苅寿彦06.8.1926歳9ヶ月267戦7年7ヶ月
山本康志05.8.2028歳5ヶ月362戦9年11ヶ月
宗像徹04.8.2130歳4ヶ月202戦11年4ヶ月
北沢伸也02.9.1431歳3ヶ月230戦4年5ヶ月
浜野谷憲尚03.8.2331歳7ヶ月449戦12年7ヶ月
菊地昇吾08.6.1432歳6ヶ月261戦8年5ヶ月
※年齢昇順でソート。


重賞優勝の現役最年少は白浜騎手の19歳9ヶ月。キャリアとしては白浜騎手と植野騎手の32戦、初障碍からの年月では植野騎手の9ヶ月が最短となります。10代での障碍重賞制覇は白浜騎手のみと、白浜騎手の優秀さが際立つ結果になっていまして、その後騎乗馬に恵まれた面が大きいとはいえ、重賞勝利を積み重ねるのも納得。植野騎手は障碍参戦自体は遅めでしたが、そこからあっという間の重賞勝利。重賞2勝目は初勝利から10年待たねばなりませんが、スピード記録だけ見るとそこまでかかったのが不思議なくらい。今年の好調さは、本来の調子が出た、と見た方がいいのでしょうか。あと、横山義騎手は初重賞勝利まで6年以上かかっていますが、キャリア自体は50戦以下。最初のころは途切れ途切れにしか乗っていなかったようです。それでいてこのキャリアで重賞を仕留める(しかも初重賞が中山大障害)のですから、彼も天賦の才があるのでしょう。
さて大江原騎手に関してですが、こちらの記録更新はいずれも厳しそう。まず、現時点で19歳9ヶ月でして、現役最年少記録の更新は既に不可能。キャリア的にも残り3戦くらいでは、仮に中山大障害に騎乗できたとしてもその前にチャンスを失ってしまう可能性もあります。初障碍からの年月としては来年の1月2月くらいまで余裕がありますが、中山大障害を逃すと次の障碍重賞は3月の阪神スプリングジャンプですからねえ…。先人は偉大です。とはいえ美浦トレセン限定にするとまだいくらか余裕はあります。美浦限定なら最年少は五十嵐騎手の23歳7ヶ月、キャリアでは横山義騎手の48戦、初障碍からの年月だと五十嵐騎手の5年7ヶ月…って全体で見たときと比べて全然違いますね。この感じなら、少なくとも美浦最年少、初障碍からの年月あたりは更新できるのではないでしょうか。


中央競馬の売り上げは下げ傾向になかなか歯止めがかからず、特に障碍競走の売り上げは落ち込んでいるようで来年には賞金も減額されてしまうそうですが、大江原騎手のような新星が活躍すると、少しは斯界も盛り上がることでしょう。今回は障碍重賞のスピード記録に焦点を当ててみましたが、大江原騎手にはスピード記録を更新しないまでも、今年急成長の五十嵐騎手とともに、次代の美浦の障碍界を背負って立つ存在になってほしいなあと思います。

*1:実際は初めて背負う斤量や大障碍、芝よりもダートでより切れる脚、一応向かうようだけどそもそも出走できるか?など、克服しなければならない問題は多いですが