昨年は松岡騎手が自身初の年間100勝を達成。マイネル系馬主のファーストチョイスという状況があるとはいえ、横山典騎手、内田騎手、蛯名騎手らが激しくリーディングを争っていた中での100勝というのは評価に値するものと思われます。
ことしは3日開催では勝利がなかったものの、5日の中山金杯で優勝、1日3勝のまずまず好調な滑り出しで、いまや押しも押されぬ若手ナンバーワンジョッキーと言っても過言ではないでしょう。デビュー当時、同期の長谷川騎手や石橋脩騎手に比べて目立たない成績だったのが嘘のようです。
その松岡騎手、満26歳での100勝達成と、武豊騎手は別格としても、過去の100勝ジョッキーと比べるとかなり若くしての達成のように思われます。調べるついでに、年間100勝を達成した騎手についてあれこれまとめてみました。集計対象は、1986〜2010年の25年間。この期間内であれば、引退した騎手も含めて集計します。
まず、年別の達成者一覧です。
年 | 100勝騎手(年間勝利数) | 人数 |
---|---|---|
1986 | 河内(117)、増沢末(103)、岡部(101) | 3 |
1987 | 岡部(138) | 1 |
1988 | 柴田政(132)、武豊(113)、南井克(110) | 3 |
1989 | 武豊(133) | 1 |
1990 | 武豊(116)、岡部(105)、増沢末(100) | 3 |
1991 | 岡部(128) | 1 |
1992 | 武豊(130)、岡部(129)、南井克(103) | 3 |
1993 | 武豊(137)、岡部(114)、柴田政(113) | 3 |
1994 | 武豊(134)、岡部(121) | 2 |
1995 | 武豊(134)、横山典(130)、岡部(121) | 3 |
1996 | 武豊(159)、岡部(136)、横山典(126) | 3 |
1997 | 武豊(168)、岡部(124)、松永幹(101)、柴田善(100) | 4 |
1998 | 武豊(169)、蛯名正(136)、柴田善(109)、横山典(104)、岡部(100) | 5 |
1999 | 武豊(178)、蛯名正(129)、柴田善(105) | 3 |
2000 | 武豊(130)、岡部(103)、横山典(101)、四位洋(101)、後藤(101) | 5 |
2001 | 蛯名(133)、柴田善(129)、岡部(101)、中舘(100) | 4 |
2002 | 武豊(133)、柴田善(120)、藤田(111) | 3 |
2003 | 武豊(204)、柴田善(119)、安藤勝(112)、藤田(103)、蛯名正(101) | 5 |
2004 | 武豊(211)、柴田善(145)、安藤勝(127)、藤田(121)、横山典(116)、後藤(101) | 6 |
2005 | 武豊(212)、横山典(134)、藤田(115)、福永祐(109)、柴田善(106)、中舘(105)、安藤勝(104)、蛯名正(101) | 8 |
2006 | 武豊(178)、藤田(127)、岩田(126)、安藤勝(120)、横山典(113)、後藤(107)、中舘(103) | 7 |
2007 | 武豊(156)、岩田(145)、安藤勝(136)、後藤(116)、田中勝(108)、中舘(107)、横山典(106)、蛯名正(105)、藤田(104) | 9 |
2008 | 武豊(143)、内田博(123)、安藤勝(119)、岩田(118)、後藤(107)、中舘(105) | 6 |
2009 | 内田博(146)、武豊(140)、岩田(109)、藤田(108)、横山典(106)、中舘(104)、蛯名正(101) | 7 |
2010 | 横山典(120)、内田博(118)、蛯名正(116)、福永祐(109)、松岡(109) | 5 |
勝ち星が特定の騎手に偏っていく状況を表しているのか、21世紀に入ると100勝騎手が一気に増えていますね。安藤勝騎手をはじめとする、地方のトップジョッキーの中央移籍も一因であるのは間違いないでしょう。武豊騎手の絶対王者ぶりには感嘆するより他なく、武豊騎手のデビュー以来、栗東は彼中心に回っているのは疑いようのないところ。安藤勝騎手が騎乗数をセーブしている現在、栗東で彼を追う騎手の一番手は岩田騎手か福永騎手、あるいは藤田騎手ということになりそう。美浦は岡部騎手が90年代後半まで牽引して、それを受けた柴田善騎手、横山典騎手、蛯名騎手の世代が今日に至るまで引っ張っている、そこを内田騎手が割ってきたという状況でしょうか。内田騎手も年齢的には3騎手と同世代ですけどね。
上記を、騎手別の達成回数でまとめてみました(現役騎手のみ)。
騎手 | 100勝達成回数 | 自己最多勝利 |
---|---|---|
武豊 | 20 | 212 |
横山典弘 | 10 | 134 |
柴田善臣 | 8 | 145 |
蛯名正義 | 8 | 136 |
藤田伸二 | 7 | 127 |
中舘英二 | 6 | 107 |
安藤勝己 | 5 | 136 |
後藤浩輝 | 5 | 116 |
岩田康誠 | 4 | 145 |
内田博幸 | 3 | 146 |
福永祐一 | 2 | 109 |
松岡正海 | 1 | 109 |
田中勝春 | 1 | 108 |
四位洋文 | 1 | 101 |
達成回数の上位にいるのは100勝以上でおなじみの騎手ばかりですね。全体を見渡すと、現役の一流騎手を集めました、という感じになっていますので、松岡騎手も実績的に一流騎手の仲間入りを果たした、と言えそう。また、引退騎手を含め、武豊騎手以外に年間150勝以上を達成した騎手がいないのもわかります。次に150勝の壁を破るのは誰でしょうか。順当なら内田騎手か岩田騎手なのでしょうし、昨年初頭の勢いがあるなら横山典騎手にも可能と思われます。
次に、100勝達成年の年齢順に並べてみました。当該年の12月末日時点での年齢です。
騎手 | 年 | 年齢 | 騎手 | 年 | 年齢 | 騎手 | 年 | 年齢 | 騎手 | 年 | 年齢 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
武豊 | 1988 | 19 | 柴田善 | 1998 | 32 | 柴田善 | 2003 | 37 | 岡部 | 1991 | 43 |
武豊 | 1989 | 20 | 横山典 | 2000 | 武豊 | 2006 | 安藤勝 | 2003 | |||
武豊 | 1990 | 21 | 蛯名正 | 2001 | 横山典 | 2005 | 中舘 | 2008 | |||
武豊 | 1992 | 23 | 藤田 | 2004 | 藤田 | 2009 | 岡部 | 1992 | 44 | ||
武豊 | 1993 | 24 | 後藤 | 2006 | 岡部 | 1986 | 38 | 安藤勝 | 2004 | ||
武豊 | 1994 | 25 | 岩田 | 2006 | 柴田善 | 2004 | 中舘 | 2009 | |||
武豊 | 1995 | 26 | 柴田善 | 1999 | 33 | 横山典 | 2006 | 岡部 | 1993 | 45 | |
後藤 | 2000 | 武豊 | 2002 | 武豊 | 2007 | 柴田政 | 1993 | ||||
松岡 | 2010 | 藤田 | 2005 | 蛯名正 | 2007 | 安藤勝 | 2005 | ||||
横山典 | 1995 | 27 | 後藤 | 2007 | 内田博 | 2008 | 岡部 | 1994 | 46 | ||
武豊 | 1996 | 岩田 | 2007 | 岡部 | 1987 | 39 | 安藤勝 | 2006 | |||
横山典 | 1996 | 28 | 武豊 | 2003 | 34 | 南井克 | 1992 | 岡部 | 1995 | 47 | |
武豊 | 1997 | 蛯名正 | 2003 | 柴田善 | 2005 | 安藤勝 | 2007 | ||||
四位洋 | 2000 | 藤田 | 2006 | 横山典 | 2007 | 岡部 | 1996 | 48 | |||
武豊 | 1998 | 29 | 後藤 | 2008 | 武豊 | 2008 | 安藤勝 | 2008 | |||
蛯名正 | 1998 | 岩田 | 2008 | 内田博 | 2009 | 増沢末 | 1986 | 49 | |||
福永祐 | 2005 | 福永祐 | 2010 | 柴田政 | 1988 | 40 | 岡部 | 1997 | |||
松永幹 | 1997 | 30 | 南井克 | 1988 | 35 | 中舘 | 2005 | 岡部 | 1998 | 50 | |
横山典 | 1998 | 柴田善 | 2001 | 武豊 | 2009 | 岡部 | 2000 | 52 | |||
武豊 | 1999 | 武豊 | 2004 | 蛯名正 | 2009 | 増沢末 | 1990 | 53 | |||
蛯名正 | 1999 | 藤田 | 2007 | 内田博 | 2010 | 岡部 | 2001 | ||||
藤田 | 2002 | 岩田 | 2009 | 中舘 | 2006 | 41 | |||||
後藤 | 2004 | 中舘 | 2001 | 36 | 横山典 | 2009 | |||||
河内 | 1986 | 31 | 柴田善 | 2002 | 蛯名正 | 2010 | |||||
柴田善 | 1997 | 横山典 | 2004 | 岡部 | 1990 | 42 | |||||
武豊 | 2000 | 武豊 | 2005 | 中舘 | 2007 | ||||||
藤田 | 2003 | 蛯名正 | 2005 | 横山典 | 2010 | ||||||
田中勝 | 2007 |
年間100勝は、20代ではさほど多くなく、騎手として脂の乗る年代であろう30代で多く達成されているようですね。岡部騎手、増沢末騎手は50代で年間100勝という大記録を打ち立てていますし、騎乗数を抑える前の安藤勝騎手も40代での年間100勝が多数。武豊騎手もまだまだ老け込む年ではないでしょう、100勝復帰を期待したいです。
初めて100勝を達成した年だけ抽出すると、以下のようになります(現役騎手のみ)。
騎手 | 年 | 年齢 |
---|---|---|
武豊 | 1988 | 19 |
後藤浩輝 | 2000 | 26 |
松岡正海 | 2010 | 26 |
横山典弘 | 1995 | 27 |
四位洋文 | 2000 | 28 |
蛯名正義 | 1998 | 29 |
福永祐一 | 2005 | 29 |
藤田伸二 | 2002 | 30 |
柴田善臣 | 1997 | 31 |
岩田康誠 | 2006 | 32 |
中舘英二 | 2001 | 36 |
田中勝春 | 2007 | 36 |
内田博幸 | 2008 | 38 |
安藤勝己 | 2003 | 43 |
19歳、2年目で初の100勝を達成した武豊騎手が抜けているとはいえ、26歳で初の年間100勝となった松岡騎手も、横山典騎手、蛯名騎手の初の年間100勝の年より若いとなると、かなり速い印象です。10年前、同じく26歳で達成している後藤騎手も速く、松岡騎手の将来はちょうど後藤騎手のような成績になるのかもしれません。地方出身騎手が初めて100勝を超えたときの年齢が上になるのは仕方ないのでひとまず措くと、100勝達成が多いのは30代とはいえ、多くのJRA生え抜き騎手は30歳を迎える頃には一度は年間100勝を達成していると言えそう。30歳を過ぎてから初めて100勝超えとなった生え抜き騎手は、柴田善騎手、中舘騎手、田中勝騎手くらいです。こう見ると、31歳にして初の年間100勝を達成したのち、9年間で8度の100勝超えを記録した柴田善騎手はけっこう凄いような…。ローカルが主戦場だったとはいえ、40代になって5年連続100勝超えだった中舘騎手も晩成の極みという印象です。
次に年間100勝を達成する騎手は誰になるでしょうか。20代の騎手で見ていくと、筆頭候補は川田騎手になるのでは、と考えます。順調に勝ち星を伸ばして昨年は菊花賞優勝を含む自己最多の83勝をマーク、同期のライバルである藤岡佑騎手に20勝の大差をつけました。あと17勝、というのは1ヶ月あたり2勝程度の上積みが必要なので、騎乗停止があったりすると相当苦しくなりますが、手の届くところまで来ているように思います。今年達成できれば、後藤騎手、松岡騎手と同様26歳での達成となります。
挙げるなら昨年92勝の丸山騎手が筆頭なのかもしれませんが、今年は減量がなくなりますし、マークもきつくなるでしょうから、向こう数年は難しいのでは、と思っています。
騎手の顔触れを見て述べたように、年間100勝を達成する騎手はいずれもかなりの戦績を残している騎手ばかり。松岡騎手も毎年ある程度の成績が求められる立場になったと言うことができましょうし、本人もこの成績が1年限りにならないよう、より研鑽することでしょう。武豊騎手をはじめとする上位騎手は多くが40歳前後なので、抜けて若い彼に日本中央競馬会がかける期待も大きいものと思われます。果たしてそうした期待に応え続けることができるでしょうか。ツイッターの投稿を見る限り、プレッシャーとほどよく付き合っているようなので大丈夫そうですけどね。