騎手の重賞初騎乗あれこれ
今週末の函館記念にて、今年デビューした伴騎手が同期の先陣を切って重賞騎乗予定。現在3勝、通算騎乗数100回未満という状態での重賞初騎乗はなかなか珍しいように思います。デビュー年の7月で重賞初騎乗というのも早めに感じますね。デビュー即重賞騎乗といえば初勝利が重賞だった武幸騎手が有名ですが、全体的な傾向としてはどの段階で重賞初騎乗となった騎手が多いのでしょうか。調べてみました。対象は、1986年以降に競馬学校を経てJRAでデビューした騎手、計233人。安藤勝騎手をはじめとした地方競馬出身騎手、およびニュージーランドを経て中央入りした横山賀騎手は対象外です。重賞には、グレード重賞はもちろん、ジャンプグレード制導入以前の障害重賞、アラブ重賞を含みます。
はじめに、デビュー後何ヶ月で重賞初騎乗を果たしたかで分類しました。例えば、デビュー年の3月にいきなり騎乗していると0ヶ月、4月だと1ヶ月・・・というふうにしています。カッコ内は騎乗日、3年以上の組のみデビュー後経過年月です。
分類 | 人数 | 騎手 |
---|---|---|
13 | ||
6 | ||
4 | ||
12 | ||
11 | ||
18 | ||
17 | ||
7 | ||
10 | ||
8 | ||
4 | ||
10 | ||
28 | ||
15 | ||
13 | ||
23 | ||
11 |
全騎手の半分以上がデビュー後1年以内に重賞に騎乗しています。思ったより多い印象。全騎手の重賞初騎乗までの期間を単純平均すると約1年1ヶ月なので、この値からもデビュー後1年以内に重賞に騎乗できるかどうかが早めかどうかの判断基準になりそう。伴騎手はデビュー後4ヶ月の組なので、蛯名騎手らと初騎乗時期が一緒。全体では上位(?)2割くらいに位置するので、早くはあります。
期間的に最短騎乗になるのは福永騎手。有名な武幸騎手は開催2日目(日曜)での重賞騎乗ですが、福永騎手は開催1日目(土曜)の重賞騎乗。正真正銘のデビュー日の重賞騎乗で、3月第1週の土曜の重賞に騎乗した新人騎手は、福永騎手のみになります。彼を上回るなら3月1日が土曜になり、かつ重賞がある場合に限られますが、デビュー週に重賞に騎乗すること自体極めて異例ですので、ほぼ破られない記録であるといっていいでしょう。
この「デビュー週に重賞騎乗」という記録、1986年以降では福永騎手と武幸騎手に千田騎手を含め3例しかありません。思えば三浦騎手がデビュー週に重賞騎乗予定でしたが、落馬負傷により乗り替わりになった例がありましたね。あれがなければ4例目になったはずですが。ちょっともったいない。
一方、デビューから重賞騎乗までの期間が最も長かったのは合谷騎手。11年以上を経てようやく騎乗しています。宇田騎手の8年半というのもかなり長いですが、個人的には宇田騎手が重賞に騎乗したことがある、という方が意外に感じました(失礼)。全騎手の約85%がデビューから3年以内に重賞騎乗を果たしています。そう考えると、デビューして丸3年経っても重賞に騎乗していない騎手(≒減量特典がある間に重賞に騎乗していない騎手)は、以後も騎乗する可能性は低いと考えられます。
次に、重賞初騎乗までに挙げていた勝利数での分類です。「〜20勝」以上のカッコ内は重賞初騎乗時点での通算勝利数。
分類 | 人数 | 騎手 |
---|---|---|
6 | ||
6 | ||
13 | ||
10 | ||
9 | ||
11 | ||
13 | ||
11 | ||
8勝 | 9 | |
8 | ||
8 | ||
9 | ||
10 | ||
10 | ||
6 | ||
3 | ||
24 | ||
17 | ||
13 | ||
14 |
重賞騎乗は実績を積んでから、というイメージではありますが、別にそんなことはなく、半数近くの騎手が通算10勝以下で重賞騎乗を果たしていたということがわかります。初年度大苦戦した吉田隼騎手も、デビューからわずか2週間で重賞騎乗の機会を得ていたもよう。1年、2年と騎乗して通算勝利が2桁に達していなくても、重賞に騎乗するだけなら機会が与えられることが多いようですね。伴騎手は3勝ですから、今週末未勝利で重賞に臨むなら、武豊騎手らと同じグループになります。
重賞騎乗までに最も勝ち星を挙げた苦労人は意外にも川須騎手。勝ち始めた時期が遅かったとはいえ、通算61勝での重賞初騎乗は、現在の活躍を思うと、結果論とはいえ遅すぎたと言えるでしょう。川須騎手に続くのがこれまた若手の西村騎手。実は先週の七夕賞が重賞初騎乗。デビュー後3年以上を経過し、減量特典がなくなってからの重賞騎乗という珍しいパターンです。
続いて、重賞初騎乗が通算何戦目だったかでの分類です。カッコ内の数字は、初騎乗の重賞が何戦目であったかを示します。
分類 | 人数 | 騎手 |
---|---|---|
11 | ||
7 | ||
12 | ||
16 | ||
11 | ||
17 | ||
10 | ||
13 | ||
22 | ||
16 | ||
17 | ||
14 | ||
14 | ||
11 | ||
7 | ||
12 |
デビューから重賞騎乗までの期間、重賞騎乗までの勝利数とある程度相関が見られる結果ではありますが、騎手によって騎乗数の多寡があるため、一概にそうとも言えないのが面白いところです。騎乗数の単純平均は約275なので、ざっと通算300戦目までに重賞騎乗ができれば標準的といった感じでしょうか。
最小の騎乗数で重賞騎乗を果たしたのは武幸騎手でも福永騎手でもなく、千田騎手。デビュー4戦目での重賞騎乗は不世出の大記録ではないでしょうか。これはまだフリー騎手がほとんどいない時代であったこと、伊藤雄厩舎からのデビューで自厩舎に有力馬が多かったことが関係しているように思います。次が福永騎手かと思いきや、池田騎手と高田騎手が6戦目で続く形に。高田騎手はブゼンキャンドル号に騎乗しており、豪気なものだ、さすが松田博厩舎、と思ったものの、この段階では500万下を優勝しただけの馬でした。福永騎手は7戦目での騎乗、武幸騎手は14戦目での騎乗。福永騎手と武幸騎手の間にはまだ2人います。伴騎手は取消等がなければ95戦目で騎乗予定。他の項目を含め、早めの重賞騎乗になります。
重賞初騎乗に至るまでの騎乗数が大きかったのは、やはり合谷騎手。ただ、11年騎乗して1,344戦目、というのはいかにも少なく、障害競走中心だった関係もありそうです。そういう意味では、次位の西村騎手の1,155戦目というのがかなり大きな数字と言えそう。なぜ重賞騎乗に縁がなかったのでしょうね…。ほか、意外なところでは村田騎手も騎乗数多め。村田騎手はここから重賞初優勝まで8年、重賞だけで100戦以上を要するわけで、本当に苦労の多い騎手です。
なお、今回調査対象の233人中、重賞騎乗経験があったのが210人。今週騎乗する伴騎手を除くと、以下の22騎手に重賞騎乗の経験がありません。井西騎手や竹本騎手の例を一緒に並べるのはどうかと思わなくもないですが、一応…。通算勝利数、通算騎乗数(現役騎手は7月7日終了現在)と合わせて記載しておきます。デビュー順。
騎手 | 通算勝利 | 通算騎乗数 |
---|---|---|
森勝義 | 2 | 131 |
小谷祐司 | 11 | 587 |
押田純子 | 2 | 158 |
板倉真由子 | 1 | 246 |
野崎孝仁 | 3 | 154 |
佐藤年毅 | 26 | 755 |
菊池憲太 | 7 | 403 |
西原玲奈 | 17 | 590 |
大沢辰也 | 0 | 120 |
井西泰政 | 3 | 160 |
竹本貴志 | 1 | 15 |
大下智 | 15 | 693 |
池崎祐介 | 5 | 438 |
菅原隆一 | 3 | 438 |
高嶋活士 | 0 | 244 |
花田大昂 | 7 | 432 |
長岡禎仁 | 4 | 244 |
原田和真 | 3 | 243 |
山崎亮誠 | 6 | 262 |
岩崎翼 | 3 | 137 |
城戸義政 | 1 | 81 |
原田敬伍 | 3 | 85 |
この中だと佐藤年騎手が重賞に騎乗していてもおかしくない戦績ですね。とはいえ、通算の成績を見るとオープンクラスの騎乗は3回、1600万下ですら3回。この成績で高額条件にほとんど騎乗しなかった理由がよくわかりませんが、いま現在より騎手が多かった関係もあるのでしょうか。
現役では大下騎手が重賞未騎乗で勝利数・騎乗数ともにトップ。デビューから6年4ヶ月が経過しており、仮に来週騎乗したとしても期間としては歴代3位の記録に相当します。とはいえ、現在は週に1鞍騎乗があるかどうかという状況ですので、この先機会があるかは微妙です。現在のお手馬で重賞出走の可能性があるのはステキナシャチョウ号くらいですが、罷り間違って1600万下を突破したとしてもオープン特別回りになるでしょうし…。
他の現役組では菅原騎手、花田騎手、高嶋騎手あたりが重賞に騎乗できるか微妙。2年目以下の騎手は単純にチャンスがないだけで、自厩舎を中心に重賞騎乗の機会が巡ってきそうです。レース以外の面でいろいろと問題を起こしている原田敬騎手は重賞騎乗の前に周囲に見捨てられないか心配ですが。
ほか、調べている間に気付いたヨタ話をいくつか。
- ・若手の重賞初騎乗の機会で多いのが、「ハンデ重賞の超軽ハンデの出走馬に騎乗できる騎手が若手しかいない」というもの。ハンデ競走で軽ハンデとなると、言ってみれば実力を評価されていないということですから、優勝する期待よりは、上位に進出すれば儲けものくらいの出走になるので、体重面以外でも若手を起用しやすいという事情があるのでしょう。今回の伴騎手もこのパターン。重賞騎乗経験者210人中、実に101人がハンデ重賞にて重賞デビューを果たしています。
- ・重賞初騎乗騎手の全成績は(4.7.5.194)です。このうちハンデ競走が(2.6.1.92)、ハンデ競走以外が(2.1.4.102)。基本的に苦戦ですが、馬券になる可能性はハンデ競走の方がわずかに高いです。
- ・重賞初騎乗で優勝した4名の騎手は、菊沢仁騎手、武幸騎手、池添騎手、宮崎騎手。ハンデ競走の優勝は池添騎手と宮崎騎手です。
- ・重賞初騎乗で2着だったのは北沢騎手、常石騎手、田嶋騎手、金子騎手、大庭騎手、平沢騎手、藤懸騎手。この中にはいまだ重賞で優勝できていない騎手もちらほら…。
- ・重賞初騎乗で3着だったのは藤原英騎手、五十嵐久騎手、野元嘉騎手、北村宏騎手、石神騎手。
- ・初重賞がGI競走だったのは5名。瀬古騎手、芹沢騎手、五十嵐久騎手、穂苅騎手、大江原圭騎手です。このうち、掲示板に載ったのは五十嵐久騎手と大江原圭騎手、馬券対象になったのは五十嵐久騎手のみ。
- ・上記5名のうち、初重賞が平地GIだったのは芹沢騎手のみ。この時点で芹沢騎手の勝利数は20、まだ3kg減でしたから、31勝以上の内規ができたのはもう少し後のことになるようですね。
- ・複数の騎手に重賞初騎乗の機会を与えた馬はアスカザン号(1986)、オキノトモヅナ号(1988〜1990)、エレクトロアート号(1989〜1991)、トーセンリリー号(2003〜2004)。オキノトモヅナ号はいずれも中山大障害、先の瀬古騎手と五十嵐久騎手の重賞初騎乗をアシストしています。また、トーセンリリー号は、石橋脩騎手、吉田隼騎手、田辺騎手と3名の騎手に重賞初騎乗の機会を与えた唯一の馬です。
最後に、既に掲載したデータも含めた、重賞騎乗経験者210名の重賞初騎乗の概要を貼ろうとしましたが、入りきらないようなので、前日の記事扱いにします。