アーモンドアイ号がヴィクトリアマイルを優勝して国内獲得賞金が10億円を突破したと報じられています。ご存知のように現在の獲得賞金ナンバーワンはキタサンブラック号で、長らく破られなかったテイエムオペラオー号の牙城を破ったわけですが、近年の目玉GI競走の賞金高騰(すべてのレースの賞金が上がっているわけではなく、むしろ一時期より下がっているレースもあります)もあり、獲得賞金上位馬は近年の馬が占めることがほとんど。賞金ランキングが話題になるたびに、「昔の名馬の賞金を現代の賞金に換算するとどうなるのか」という声も一定数上がります。
今回、Twitterのフォロワーさんからそのようなリプライをいただいたのと、戦績集計の素地はあったので、この機会に「戦績はそのままに、現在の賞金体系で集計したらどのような賞金ランキングになるか」をやってみることにしました。このようなことにどれだけの意味があるかというのはありますが、お示しする結果を見るとわかるように、実際の獲得賞金では量れない、過去の名馬の活躍の度合いを定量的に見る(過去のこの馬は現代のこの馬並みの活躍だった、等)には良いのではないかと思います。
本来年末なり、秋競馬の番組発表時点(一律今年の賞金が適用できる)なりの区切りでやった方がいいのでしょうが、上位には現役馬がほとんどいないので、変な時期にやるのはご了承くださると幸いです。また、あとで述べるように、都合により集計対象としたのは中央重賞競走のみです。交流重賞は含んでいないので、ダート馬が上位に進出するには厳しいものとなっています。オープン特別や新馬戦等の賞金も含まないので誤差があることをあらかじめご了承ください。さらに、処理量の関係でろくに再チェックせずに数字を出していますので、集計ミスが含まれている可能性があると留意ください。このあたりを考慮してタイトルも「不完全ランキング」としました。順位の厳密性よりは各馬だいたいこの位置、というお遊びくらいに思ってくださると、こちらとしてはありがたいです。
賞金の集計ルールは以下のように設定しました。細かい話なので、気になる方のみご確認ください。
・集計対象は中央重賞競走のみとする。85年以前の重賞は「優駿達の蹄跡」*1記載の中央重賞で集計。オープン特別や一般競走は含まないため、厳密な結果ではない。青葉賞やチューリップ賞のように当初オープン特別だったレースは重賞昇格後のみが対象。
・中央競馬の本賞金の考え方に則り、重賞5着以内の賞金を加算する。この結果、集計対象となったのは約11,600頭。
・同着賞金も現行のルールに則り反映させる。
・最近年の賞金を使用。番組と賞金が発表されている春夏開催は2020年の賞金、秋開催は2019年の賞金。今年賞金が上がった大阪杯、高松宮記念、安田記念、中山記念、金鯱賞は今年の賞金。一時期に比して賞金が減ったレースも現行賞金とする。
・グレードが変わった重賞の場合、グレード変更前の賞金は現行の同グレード類似条件を準用。例えば、GII時代のフェブラリーSはGII相当の賞金、GIII時代はGIII相当の賞金とし、GIの賞金を適用しない。ただし、ホープフルS(GII)は重賞化当初から賞金がGI並み(通常の2歳GIIの倍近く)だったので、GIと同賞金にする。
・「同グレード類似条件」は同じグレードでも芝ダ障の別、牝限か否かの別、2歳3歳古馬の別、距離体系で賞金が異なるため、それを考慮する。例えば、GIIのフェブラリーSには古馬芝GIIの賞金(同じ芝でも多少の違いはある)を適用するのではなく、古馬ダートGIIの東海Sの賞金を適用する。
・85年以前は86年のグレードを準用。例えば85年以前の弥生賞やセントライト記念はGIII扱い(86年までGIII、87年からGII)とする。
・ノングレード重賞はGIIIとし、現行の同グレード類似条件を準用。
・ジャンプグレード導入前の障碍重賞は中山大障害春・中山大障害秋をGIとする。また、阪神障害S春、東京障害特別春、京都大障害秋をGIIとする(GII競走である阪神スプリングジャンプ、東京ハイジャンプ(ジャンプグレード導入当時は春)、京都ハイジャンプ(当時は秋)の代替)。それ以外はGIII。
・阪神3歳Sは阪神JFの賞金を用いる。
・フェアリーSは2歳12月に施行されていた時期も3歳牝限GIIIの賞金とする。
・3歳限定のエリザベス女王杯は秋華賞の賞金を適用。
・東京開催のマイルチャンピオンシップ南部杯、京都開催のJBC3競走は当時の賞金のままとする。
・アラブの競走はサラ系競走に比べ賞金が全然違う(安い)ので細かい設定を諦め、セイユウ記念やタマツバキ記念の95年(最終年)の賞金を芝ダ障によらずすべての年に割り当てる。
・今年グレードが上がる富士SはGIIIとして集計する。
上位50頭の結果は以下のとおりです。「換算賞金」が現在の賞金で重賞戦績を手集計した結果、単位万円。「実際の本賞金」が賞金ランキング等で表に出る数字と思ってください(こちらには一般競走の結果も含みます)。
順位 | 馬名 | 換算賞金 | 実際の本賞金 |
---|---|---|---|
1 | テイエムオペラオー | 210,600 | 175,787 |
2 | キタサンブラック | 184,300 | 181,320 |
3 | シンボリルドルフ | 175,800 | 68,482 |
4 | スピードシンボリ | 172,170 | 16,321 |
5 | オグリキャップ | 165,500 | 88,830 |
6 | ディープインパクト | 162,500 | 132,400 |
7 | ブエナビスタ | 155,600 | 130,580 |
8 | オルフェーヴル | 152,650 | 122,220 |
9 | ゴールドシップ | 151,770 | 130,820 |
10 | ジェンティルドンナ | 151,330 | 125,190 |
11 | ウオッカ | 143,600 | 123,200 |
12 | スペシャルウィーク | 140,600 | 102,400 |
13 | ゼンノロブロイ | 134,100 | 108,680 |
14 | シンボリクリスエス | 125,300 | 95,550 |
15 | メジロマックイーン | 119,000 | 99,810 |
16 | ナリタブライアン | 118,250 | 89,510 |
17 | シンザン | 115,600 | 6,022 |
18 | ハクチカラ | 113,770 | 1,657 |
19 | タップダンスシチー | 112,830 | 106,880 |
20 | リユウフオーレル | 110,270 | 3,868 |
21 | ダイワメジャー | 109,270 | 94,540 |
22 | テンポイント | 108,700 | 32,842 |
23 | メイショウサムソン | 108,400 | 98,150 |
24 | アンバーシャダイ | 105,500 | 46,205 |
25 | グラスワンダー | 104,270 | 67,740 |
26 | カネミノブ | 103,990 | 34,056 |
27 | グリーングラス | 102,100 | 32,845 |
28 | ナリタトップロード | 100,830 | 92,270 |
29 | エアグルーヴ | 99,800 | 78,350 |
30 | ドリームジャーニー | 99,730 | 83,520 |
31 | トウカイテイオー | 99,200 | 60,470 |
32 | メイショウドトウ | 96,300 | 90,900 |
33 | トウショウボーイ | 94,900 | 28,077 |
34 | カンパニー | 94,720 | 92,340 |
35 | マヤノトップガン | 94,300 | 75,309 |
36 | シュヴァルグラン | 94,110 | 99,020 |
37 | アーモンドアイ | 94,100 | 94,380 |
38 | ダイワスカーレット | 93,800 | 74,400 |
39 | シーザー | 93,050 | 2,731 |
40 | ミホシンザン | 92,980 | 48,468 |
41 | メジロブライト | 92,300 | 81,130 |
42 | ビワハヤヒデ | 91,700 | 81,740 |
43 | ニッポーテイオー | 91,050 | 54,499 |
44 | カブトシロー | 91,005 | 7,381 |
45 | スワーヴリチャード | 89,100 | 87,310 |
46 | カツラギエース | 88,300 | 41,068 |
47 | メジロアサマ | 87,650 | 18,737 |
48 | リスグラシュー | 86,880 | 86,560 |
49 | ハイセイコー | 85,800 | 21,957 |
50 | ヒシアマゾン | 84,970 | 68,690 |
※「実際の本賞金」の集計結果はTARGET frontier JV(元データはJRA-VAN DataLab.)によるJRA本賞金。86年以前も走った競走馬の賞金はWikipediaを参照(付加賞金等が含まれている?)、万円未満四捨五入。
当然ながら、有馬記念やジャパンCのような、現在1着賞金がすごいことになっているレースで活躍した過去の名馬が上位に進出する結果となりました。
予想はされましたが、1位はやはりテイエムオペラオー号。現代の賞金にすると20億円どころか21億円ホースになってしまいます。2位はキタサンブラック号。最近の馬なのでほぼ誤差がないですが、3位以下の過去の名馬より上にいるのはさすがの実績。以下は意外と最近の馬が多いです。昔に比べて重賞の整備が進み、今回の集計方法だと賞金を加算できるレースが多いというのも一因でしょう。そんな中にあって上位に食い込んでいるシンボリルドルフ号、スピードシンボリ号、オグリキャップ号は、各馬の実績がキタサンブラック号やディープインパクト号に比肩するものであったと実感できます。この3頭はいずれも有馬記念を2勝しているのも集計上大きなポイントですね。
現役でアーモンドアイ号に次ぐのはオジュウチョウサン号ですがそれでも93位、平地の現役馬となると157位のブラストワンピース号まで下がることになります。
牝馬を抽出して換算賞金上位20頭を見ました。
順位 | 馬名 | 換算賞金 |
---|---|---|
1 | ブエナビスタ | 155,600 |
2 | ジェンティルドンナ | 151,330 |
3 | ウオッカ | 143,600 |
4 | エアグルーヴ | 99,800 |
5 | アーモンドアイ | 94,100 |
6 | ダイワスカーレット | 93,800 |
7 | リスグラシュー | 86,880 |
8 | ヒシアマゾン | 84,970 |
9 | トウメイ | 80,700 |
10 | ホマレボシ | 76,240 |
11 | スイープトウショウ | 75,340 |
12 | メジロドーベル | 70,360 |
13 | スウヰイスー | 59,030 |
14 | ダンスパートナー | 57,700 |
15 | ショウナンパンドラ | 57,450 |
16 | タカハタ | 56,400 |
17 | クインナルビー | 55,600 |
18 | アパパネ | 54,520 |
19 | ダンスインザムード | 54,400 |
20 | パスポート | 54,190 |
牝馬20位のパスポート号で、全体の166位に位置しています。近年の歴戦の名牝たちは、過去と比べても圧倒的だということがよくわかります。トウメイ号やホマレボシ号は有馬記念を優勝しているので、それが上位進出の原動力になっています。
アーモンドアイ号以外の現役ではラッキーライラック号がパスポート号のすぐ下におり、以前実績についてTwitterでも述べましたが、歴々の名牝に肩を並べるところまで来ています。
障碍重賞の結果のみを抽出して上位20頭を見ました。
順位 | 馬名 | 換算賞金 |
---|---|---|
1 | オジュウチョウサン | 70,040 |
2 | バローネターフ | 47,900 |
3 | グランドマーチス | 44,870 |
4 | アップトゥデイト | 42,920 |
5 | ポレール | 36,220 |
6 | コウエイトライ | 33,640 |
7 | ゴーカイ | 32,220 |
8 | キングジョイ | 31,670 |
9 | メルシーエイタイム | 30,270 |
10 | ファンドリナイロ | 30,160 |
11 | メジロアンタレス | 29,740 |
12 | フジノオー | 29,000 |
13 | ケイティタイガー | 28,600 |
14 | シンボリクリエンス | 27,060 |
15 | キングスポイント | 26,890 |
16 | オースミムーン | 25,670 |
17 | ライバコウハク | 25,610 |
18 | ブロードマインド | 24,450 |
19 | キョウエイウオリア | 23,850 |
20 | パンフレット | 23,690 |
障碍競走の獲得賞金は平場オープンやオープン特別の賞金の有無でけっこう変わってくるので、実際との乖離は平地の上位馬以上に大きくなります。
今回の集計スタイルでも史上最強ジャンパーのオジュウチョウサン号が貫録のトップ。出走レースの多くが重賞で、賞金をほとんど加算できたことも大きいです。獲得賞金約5億円のゴーカイ号や4.5億円のコウエイトライ号が思ったほど上位にいないのは、平場OPやOP特別が加算されていないこともありますが、現役時の賞金が現在より高かったため、現在の賞金で計算するとかえって目減りするというのも一因としてあります。オジュウチョウサン号に次ぐ現役ではシンキングダンサー号が障碍界で54位、上位を脅かすにはまだまだです。
これ以上の細かい分析についてはとりあえず措きます。賞金が大きく変更になった場合にまたできたら…というのはありますが、そういう変更が簡単に適用できない集計方法をとってしまったので、一回きりの集計になると思います。もっとも、ジャパンCや有馬記念が1着5億円くらいにならない限り、傾向としては大きく変わらないでしょう。上位陣の壁はなかなか厚く、現役最高賞金のアーモンドアイ号もまだこの位置。先々上位に食い込む馬は出てくるでしょうか。
*1:https://ahonoora.com/ いつもお世話になっております