中央競馬のためにならない話

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同期のライバル、千葉騎手と黛騎手

前々回領家厩舎について述べましたが、領家厩舎の「気に入った減量騎手はよく使う」にピタリ当てはまる最近の好例が千葉騎手です。美浦所属で西の競馬場といえばほとんど中京くらいしか経験がない(あと小倉に少し)千葉騎手、栗東の領家厩舎とは接点がなさそうですが、両者の関係は2年前の8月から始まります。
07年8月5日の新潟10R、岩室温泉特別。5番人気のクィーンオブキネマ号に騎乗した千葉騎手は、同厩の1倍台の1番人気、ホウショウルビー号を抑え見事勝利。自身の通算3勝目を挙げるとともに、特別初勝利を飾りました。それまで領家厩舎の管理馬に騎乗したことのない通算2勝の千葉騎手が5番人気になるような馬に乗るとはいかにも不自然ですが、当時の1000万下条件は何度か除外されないと出走権が確保しづらいというルールだったため、除外を前提とした名義貸しだったように思われます。ただ経緯はどうあれ、結果を出したのは事実。以来、領家厩舎が関東圏のレースに管理馬を出走させるときはたびたび騎乗するようになりました。
これは騎乗馬を集めにくいいまの若手騎手が僅かなチャンスを活かして騎乗につなげていった例でもありますが、2年目の8月まで通算2勝だったように、デビュー当時の千葉騎手は相当苦労しました。デビュー後なかなか勝てず、初勝利は12月。それまでに積み重ねた連敗は106。初勝利で軌道に乗るかと思いきや、またしばらく勝てない日々。再び106連敗まで連敗が伸びた時点で2勝目。その後は徐々に勝ち星を伸ばし、3年目となった昨年は20勝と大いに飛躍しました。しかし今年は未勝利。減量が取れてからは騎乗数が激減、馬券に絡むことも少なくなり苦しんでいます。
そんな千葉騎手をライバル視し、また千葉騎手もライバルと認めているのが同期の黛騎手。彼もデビュー後大変な苦労をしており、デビュー年7月に2勝目を挙げてから翌年10月まで勝てず、その間の連敗は289。わたしの調べる限りこれはJRAレコード(引退騎手含め)で、今後この記録を破る騎手は現れないのでは、とさえ思っています。そんな記録を打ち立ててしまった黛騎手も、通算3勝目を挙げた翌日に4勝目、その後も少しずつではあるものの勝利を積み上げ、少し遅い飛躍の時を迎えています。松岡騎手が中心となり結成したバンド「ノビーズ」ではギターを担当。ギターの練習がいい息抜きになって騎乗も充実、と少し前のスポニチに書かれてました*1が果たしてどうなのでしょう。
両者のここまでの成績を並べてみます。

  集計期間:2006. 3. 4 〜 2009. 9.13

通算成績
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騎手      着別度数                     勝率  連対率 複勝率 単回値 複回値
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千葉直人  24- 26- 34- 41- 37-695/857    2.8%   5.8%   9.8%     37     59
黛弘人   21- 22- 35- 36- 65-702/881    2.4%   4.9%   8.9%     45     56
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年別成績(「3月以降」は減量がなくなってからの成績)
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年・年月    着別度数                     勝率  連対率 複勝率 単回値 複回値
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千葉騎手
2006年       1-  3-  8-  3-  6- 98/119    0.8%   3.4%  10.1%      8     82
2007年       3-  5-  5-  9-  9-188/219    1.4%   3.7%   5.9%     29     47
2008年      20- 12- 17- 23- 19-302/393    5.1%   8.1%  12.5%     63     57
2009年       0-  6-  4-  6-  3-107/126    0.0%   4.8%   7.9%      0     64
3月以降      0-  1-  4-  4-  0- 48/ 57    0.0%   1.8%   8.8%      0     45
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黛騎手
2006年       2-  0-  5-  8- 11-167/193    1.0%   1.0%   3.6%     13     26
2007年       2-  3- 12-  9- 22-179/227    0.9%   2.2%   7.5%      7     39
2008年       6- 10-  9- 11- 16-197/249    2.4%   6.4%  10.0%     33     89
2009年      11-  9-  9-  8- 16-159/212    5.2%   9.4%  13.7%    128     64
3月以降      6-  3-  3-  4- 14-123/153    3.9%   5.9%   7.8%    106     47
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年毎累積
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年月累積    着別度数                     勝率  連対率 複勝率 単回値 複回値
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千葉騎手
2006年       1-  3-  8-  3-  6- 98/119    0.8%   3.4%  10.1%      8     82
2007年       4-  8- 13- 12- 15-286/338    1.2%   3.6%   7.4%     21     60
2008年      24- 20- 30- 35- 34-588/731    3.3%   6.0%  10.1%     44     58
2009年      24- 26- 34- 41- 37-695/857    2.8%   5.8%   9.8%     37     59
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黛騎手
2006年       2-  0-  5-  8- 11-167/193    1.0%   1.0%   3.6%     13     26
2007年       4-  3- 17- 17- 33-346/420    1.0%   1.7%   5.7%     10     33
2008年      10- 13- 26- 28- 49-543/669    1.5%   3.4%   7.3%     18     54
2009年      21- 22- 35- 36- 65-702/881    2.4%   4.9%   8.9%     45     56
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昨年一旦大きく差が開きましたが、千葉騎手が今年未勝利と大苦戦していることもあり、ここへきて接近中。高いレベルではないですが、競り合っています。
今年大きく差が出た一因は、冬の過ごし方にあったと見ています。千葉騎手が関東主場で騎乗し、減量もありながらなかなか結果を出せなかったのに対して、黛騎手は冬の小倉に乗りに行くなど積極的にローカルを回り、地道に騎乗馬を集めてそれなりに結果も出しました。オースノムスメ号以来の縁である鶴留厩舎管理のシゲルエスペレ号の人気薄での連勝は印象深いです。そうした成果があってか、黛騎手は奥平厩舎や戸田厩舎といった新進の調教師からも依頼を受けるようになっています。特に戸田厩舎に関しては、有力馬には乗れないものの未勝利前後のクラスの馬には多く騎乗しており、数で言うなら吉田豊騎手と並ぶ厩舎の主戦と見て良さそう。このまま推移していくなら、来年の早い時期にも千葉騎手の通算勝利を抜くのではないでしょうか。
また、両名とも現在は厩舎に所属しないフリーの立場ですが、元師匠との関係も少し違うようです。黛騎手は今も元師匠の中野栄師の管理馬にたまに乗っています(質の問題もあるとはいえ、全く結果は出せていませんが)けれど、千葉騎手は元師匠の成島師の管理馬にもう5ヶ月乗っていません。デビュー当時はむしろ千葉騎手の方が所属厩舎のバックアップを受けていたように思いますし、各々の騎乗数におけるシェアも千葉−成島コンビで15%、黛−中野栄コンビで10%。安藤勝騎手、四位騎手クラスならともかく、若手が伸びるにはとにかく数、騎乗数が少なくてもいいことない、と個人的に思っているので、ある程度数が見込めるはずの元師匠との疎遠ぶりは少し気になります。何か問題でもあったのでしょうか。
グリーンチャンネルで若手騎手を取り上げた番組で見た印象は、千葉騎手が調子はいいが人なつっこく関係者に愛されそう、営業がうまそうなキャラ、黛騎手が熱くて過剰なまでにストイック、営業が苦手そうなキャラ。対照的な両者がライバルと認め合い、競っているのはいい感じです。個人的には、やや黛騎手に肩入れというか注目していますけど、この年末、あるいは1年後、2年後と年を重ねたとき、果たしてどちらがより実績を残しているのでしょうか。二人とも引退していたという悲しいオチはなしにしていただきたい。