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フリー転向を境界としての騎手と元所属厩舎との関係

土曜中山4Rの新馬戦に千葉騎手鞍上のゴールデンスター号が出走。戦前サークル内で注目されていたわけでもなく、走っても7番人気8着とこれといったことのない結果でした。ただ、一つ大きな意味がありまして、それはゴールデンスター号の所属が成島厩舎だということです。
以前千葉騎手と黛騎手についての記事で、9月時点で千葉騎手が元所属の成島厩舎の馬に5ヶ月乗っていない、と書きました。それがずっと続いており、さらに言うなら昨年5月の千葉騎手のフリー転向以来、両者のコンビは一度もなし。それまでが嘘のような切れっぷりで、土曜は久々の師弟コンビ復活だったわけです。これだけ関係が切れていればフリー転向の前後に何かがあったのだろうと推察されますが、コンビ復活ということになれば、今後千葉騎手の騎乗数も少しは見込めるのではないでしょうか。成島厩舎は決して上位厩舎ではありません。むしろ下位に位置する厩舎ですが、元所属厩舎の管理馬に騎乗しなかったことが千葉騎手の近年の不振の一因とも思われるだけに、今後の展開を見守りたいところです。


前置きが長くなりました。今回はこのような、騎手のフリー転向の前後で、騎手と所属厩舎との関係がどのようになっているかを全騎乗に占めるシェアで見たいと思います。千葉騎手のように、それまではけっこう乗っていたのに、フリー転向後ぷっつりと関係が切れるのは、そうそうないことなのではないか?と思ったので。
対象は、藤岡佑騎手や川田騎手、吉田隼騎手の競馬学校20期生以降で、現在フリーの騎手。しょっちゅうこの世代以降の若手騎手を対象にしている気がしますが、今回の場合はこの上の世代になるとフリーになったり違う厩舎に所属したりで、フリー転向の分岐点が面倒なのですよね。20期生以降はほとんどそういうことがないので、ちょうどいいと思った次第です。競馬学校卒業生以外にも、地方競馬→厩舎に所属して中央デビュー→フリー、という道をたどった赤木騎手、柴山騎手、安藤光騎手や、騎手免許を再取得した西田騎手も集計対象です。ただし、厩舎解散に伴いフリーになった水出騎手、逮捕直前にフリーになった佐藤聖騎手、一旦フリーになったものの再び厩舎に戻った小島騎手は除きます。結果は以下のとおり。

騎手元所属厩舎通算勝利デビュー所属時シェアフリー転向フリー時シェア備考
赤木高太郎坪憲章182勝2004/3/122.8%2005/3/12.7%
上野翔飯田雄三35勝2004/3/112.9%2007/3/521.5%
川田将雅安田隆行314勝2004/3/19.0%2006/1/15.0%
高野和小桧山悟7勝2004/3/130.4%2006/3/215.8%
津村明秀鈴木伸尋148勝2004/3/112.8%2007/8/218.0%
藤岡佑介作田誠二350勝2004/3/19.5%2007/3/14.6%
吉田隼人堀井雅広272勝2004/3/115.9%2007/4/33.8%
大野拓弥杉浦宏昭110勝2005/3/124.3%2008/7/160%
鮫島良太松田国英176勝2005/3/113.5%2008/5/110.1%
柴山雄一畠山吉宏216勝2005/3/19.9%2009/1/14.2%
中村将之谷潔81勝2005/3/114.3%2009/3/114.7%
西田雄一郎境征勝40勝2005/3/121.7%2008/3/18.5%
北村友一田島良保155勝2006/3/110.4%2007/9/10%
田中克典山内研二39勝2006/3/18.9%2008/10/13.4%
田中博康高橋祥泰95勝2006/3/19.6%2009/4/13.4%
千葉直人成島英春24勝2006/3/115.8%2009/5/11.7%
船曳文士加用正20勝2006/3/121.1%2009/6/10%
黛弘人中野栄治22勝2006/3/110.2%2007/6/1210.8%
安藤光彰菊川正達46勝2007/3/112.2%2009/1/213.0%フリー転向と同時に栗東移籍
池崎祐介池上昌弘5勝2007/3/118.8%2008/3/10.4%
草野太郎坂本勝美9勝2007/3/119.3%2009/9/10%
宮崎北斗高市圭二56勝2007/3/113.5%2008/11/12.4%
大江原圭作田誠二4勝2008/3/132.6%2009/3/10%フリー転向と同時に美浦移籍
三浦皇成河野通文169勝2008/3/112.4%2009/10/314.7%
※赤木騎手、西田騎手、柴山騎手、安藤光騎手の勝利・シェアは騎手免許取得(再取得)後のみ。


基本的な傾向として、厩舎を離れてフリーになると、元所属厩舎の騎乗シェアは大きく減るようですね。フリーの特徴が所属厩舎の騎乗を優先しなくていい、ということと捉えると、この傾向は当然と言えば当然。また、一線で活躍している騎手は、厩舎所属時もシェアがさほど高くありません。一見すると厩舎所属時は不遇だった、ということになりますが、その後の活躍を見ると、むしろ厩舎所属時から他厩舎からの依頼も多く、結果としてシェアが下がった、と見るのが妥当でしょう。


シェアが下がった騎手は多くがシェア比で半分以下になっており、中でも、千葉騎手以外にもフリー転向後騎乗ゼロという騎手がいました。大江原騎手は美浦所属になったのである程度仕方ないですが、それを除いても4人ですか。池崎騎手もフリー転向直後に餞別のように1鞍あっただけなので、彼も含めると5人。この人数で5人も所属厩舎と縁が切れているというのは、少々寂しいですね。
このうち大野騎手は有名ですね。調べている間に絶縁状態だったのを思い出しました。厩舎所属時のシェアはトップクラスなだけに、落差が際立ちます。たまたまというレベルではない完全な絶縁状態。フリー転向直前まで騎乗がありましたし、フリー転向の日が妙に中途半端、両者の間に何があったのか、想像するだに恐ろしいです。大野騎手はフリー転向後、1年半で24勝とやや苦しんでいる様子。ここで杉浦師が手を差し伸べられればいいのですが、そうはなりそうにないのがしんどい。あまり意識していなかった北村友騎手は少々意外。デビューから1年半、早めのフリー転向でしたが、彼の場合は幸いにもその後順調に成長していったので、元所属との関係が悪くても今のところは大丈夫ですかね? あと船曳騎手ですね。彼はフリー転向後の騎乗数が少ないので、たまたま乗っていないだけかもしれませんが、加用厩舎所属時はマストビートゥルー号で初騎乗初勝利、マイネルバシリコス号で同期特別勝ち一番乗り、マルブツトップ号で障碍競走騎乗、フォルテベリーニ号では重賞にも騎乗しており、関係はさほど悪くなかったと思えるだけに意外に思います。草野騎手と池崎騎手は…まあ仕方ないのかもしれません。


一方、シェア増は上野騎手、中村騎手、黛騎手くらいです。フリー転向の前後で騎乗シェアが大きく変わらないというのは、フリー転向後も元所属厩舎との関係が良好と見るか、フリーになったのに元所属厩舎におんぶにだっこと見るか、判断が分かれるところ。ただ、全くなくなる、という状況よりはずっと健全だと思います。
ほか、厩舎所属時の自厩舎シェアを見ると、「自厩舎の馬に乗せてもらえない」とさんざん言われていた池崎騎手や大江原騎手のシェアが決して低くないことがわかります。絶対数が少ないことから当時は乗せてもらえていなかったように映っていましたので、これもわたしとしては意外なことでした。自厩舎云々より、むしろ乗せてくれない他厩舎に問題があった、と言えるかも。もっとも、それは騎手の営業努力が足りなかったから、という説もあるでしょう、なので一概には言えませんが、少なくとも厩舎側にはある程度の努力はあったのでは、と考えます。それよりは、厩舎所属時のシェアが最低レベルで通算勝利数が40勝に到達していない田中克騎手が、厩舎で不遇をかこった騎手として浮かび上がりそう。アイルランド大使特別賞受賞者なんですけどねえ…。


こうして見ると、若手騎手のフリー転向というのには、所属時の実績も含め、いろいろな事情がつきまとっているものと思われます。若手騎手でいえば、減量がついている3年間はきっちり厩舎で働き、その後フリーとして羽ばたく、というのが理想と思われ、藤岡佑騎手が見事にそのパターンに当てはまりますが、そういう例は少ないもの。早め(デビュー3年以内)にフリーに転向してから結果を出しているのは川田騎手と北村友騎手くらいでしょうか…。三浦騎手はそれまでの実績が実績なので心配しなくてもいいと考えますが、フリーに転向して2ヶ月半(騎乗停止前まで)で9勝とかなりペースを落としており、結果を出していると言えるかどうかはまだ様子見。基本的には、デビューして3年も経っていないのにフリーに転向してしまうのはその騎手がかなりあぶないのではないか、という推測ができそうです。