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ニッチなところに好かれる勝浦騎手

本日の第29回白山大賞典で優勝した勝浦騎手は美浦の中堅ジョッキー。杉浦厩舎所属でデビュー(現在はフリー)し、師匠の管理するテレグノシス号ではNHKマイルカップ優勝をはじめ、印象に残るレースを数多く演じてきました。テレグノシス号以外にもゴスホークケン号で見事朝日杯フューチュリティSを優勝。重賞では馬券になることがそう多くない騎手ですが、波乱の裏に勝浦騎手あり、といった風で、最近だとスプリンターズSでのタガノバスティーユ号、富士Sでのキネティクス号、重賞ではありませんが今年の朱鷺Sのマイケルバローズ号などが印象深く、穴騎手の一人に挙げることもできるでしょう。
少し前に猪熊公次氏が角田騎手を贔屓にしている旨の記事*1を書きましたが、勝浦騎手にも贔屓の馬主がいるようです。それがアポロサラブレッドクラブ備前島敏子氏です。


アポロサラブレッドクラブ(以下アポロ)はその名のとおり、冠名アポロの競走馬を所有する馬主。一口馬主のクラブっぽい名前ですがオフィシャルホームページもないようですし、一応個人名義と同義と捉えてよいのでしょうか? 同じ冠名を使っている菅原太陽氏が元々代表を務めていましたが、現代表は違うようです。最近の代表馬は07年京王杯2歳S優勝のアポロドルチェ号。2歳時の主戦は後藤騎手でしたが、現在は勝浦騎手が主戦。先週のスプリンターズSに出走した際も、鞍上は勝浦騎手でした。このアポロが勝浦騎手にべったりなのは、少し前に出馬表の記事で触れたとおりです。所有馬は菅原氏の個人名義と抹消分含め(一応菅原氏の所有馬も同じとします)72頭、全戦績から騎乗数の多い騎手を調べると以下の通りです。

  集計期間:2003. 2. 2 〜 2009.10. 4
  ソート:総数順
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順位 騎手      着別度数                     勝率  連対率 複勝率 シェア
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  1  勝浦正樹  10- 13- 16- 11- 13- 59/122    8.2%  18.9%  32.0%  22.4%
  2  吉田隼人   6-  4-  6-  3-  4- 22/ 45   13.3%  22.2%  35.6%   8.3%
  3  柴田善臣   6-  7-  1-  1-  3- 20/ 38   15.8%  34.2%  36.8%   7.0%
  4  後藤浩輝   7-  6-  2-  2-  0- 14/ 31   22.6%  41.9%  48.4%   5.7%
  5  江田照男   1-  2-  2-  1-  3- 20/ 29    3.4%  10.3%  17.2%   5.3%
  6  池田鉄平   0-  5-  2-  1-  2- 16/ 26    0.0%  19.2%  26.9%   4.8%
  7  丹内祐次   0-  0-  1-  0-  2- 13/ 16    0.0%   0.0%   6.3%   2.9%
  8  蛯名正義   1-  2-  2-  1-  2-  6/ 14    7.1%  21.4%  35.7%   2.6%
  9  石神深一   1-  0-  0-  0-  1- 11/ 13    7.7%   7.7%   7.7%   2.4%
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2位にダブルスコア以上の騎乗数。全出走数の20%以上が勝浦騎手です。単純に、管理する調教師の主戦が勝浦騎手だから回ってきている、という可能性もあるので、各厩舎の勝浦騎手騎乗シェアも併せて調べてみました。アポロが今まで預託した厩舎は石栗厩舎、岩戸厩舎、菊川厩舎、佐藤吉厩舎、柴崎厩舎、高橋義厩舎、堀井厩舎の7厩舎。勝浦騎手が本格的にアポロ馬に乗り始めた2007年以降について見てみます。ここで、菊川厩舎と高橋義厩舎は05年を最後にアポロ馬の預託がないので、この2厩舎は除外します。

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調教師    着別度数              勝率  連対率 複勝率 シェア 順位 アポロ率
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佐藤吉勝  0- 0- 0- 2- 1- 3/ 6    0.0%   0.0%   0.0%   1.0%  26     66.7%
岩戸孝樹  2- 2- 4- 1- 1-13/23    8.7%  17.4%  34.8%   2.8%  12     60.9%
柴崎勇   7- 9- 9- 6- 8-44/83    8.4%  19.3%  30.1%  13.2%   1     59.0%
堀井雅広  2- 3- 6- 8- 4-46/69    2.9%   7.2%  15.9%   8.9%   4     49.3%
石栗龍彦  0- 0- 0- 0- 0- 2/ 2    0.0%   0.0%   0.0%   0.4%  43      0.0%
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 ※順位は厩舎内での勝浦騎手の占める順位。

現在もアポロが預託している厩舎を見ると、勝浦騎手が主戦になっていないような厩舎でもアポロの割合が非常に高くなっていることがわかります。具体的には岩戸厩舎、佐藤吉厩舎ですね。馬主のご指名が入っているのでしょう。対して、柴崎厩舎や堀井厩舎はアポロ率がやや下がっていますが、これは主戦格で待遇しているためで、他の馬にも多く乗せることによるのでしょう。それでも半分くらいがアポロ馬ということを考えると、やはり指名が入っていると思われます。
勝浦騎手がここまで乗るようになったきっかけですが、2007年から急増していることを考えると、2006年暮れのフェアリーSにてあっと言わせたアポロティアラ号での優勝が大きいのかなと推察されます。重賞での単勝万馬券はやはりインパクトが大きいですし、馬主としてもまさか…という思いがあったのでしょう。初めての重賞勝利でもあったわけで、そりゃ覚えもよくなりますよねえ。


勝浦騎手依存がアポロ以上に強いのが備前島氏。同じ冠名を持つビスティーズホースユニオンや備前島融氏も同系列なので一緒くたにして考えます。系列馬主から明らかなように、冠名はビスティー。ビスティー馬は今のところ目立った活躍がないですが、預託厩舎には新進気鋭の厩舎が多いので、素質馬を発掘できればいずれ重賞にも手が届くのではないでしょうか。備前島2氏とビスティーズホースユニオンを合わせ、カク地を除くと現時点での所有馬合計は25頭、全戦績から騎乗数の多い騎手を調べると以下の通りです。

  集計期間:2005. 7.17 〜 2009.10. 3
  ソート:総数順
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順位 騎手      着別度数              勝率  連対率 複勝率 シェア
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  1  勝浦正樹  8- 5- 7- 4- 2-24/50   16.0%  26.0%  40.0%  33.3%
  2  柴田善臣  1- 0- 0- 1- 0- 5/ 7   14.3%  14.3%  14.3%   4.7%
  3  五十嵐雄  1- 0- 0- 1- 2- 2/ 6   16.7%  16.7%  16.7%   4.0%
  4  石神深一  0- 0- 0- 0- 0- 6/ 6    0.0%   0.0%   0.0%   4.0%
  5  宮崎北斗  0- 0- 0- 1- 0- 4/ 5    0.0%   0.0%   0.0%   3.3%
  6  内田博幸  2- 0- 0- 2- 0- 1/ 5   40.0%  40.0%  40.0%   3.3%
  7  荻野琢真  0- 0- 0- 0- 0- 4/ 4    0.0%   0.0%   0.0%   2.7%
  8  塚田祥雄  0- 0- 0- 0- 2- 2/ 4    0.0%   0.0%   0.0%   2.7%
  9  池添謙一  1- 1- 0- 0- 0- 2/ 4   25.0%  50.0%  50.0%   2.7%
 10  福永祐一  0- 1- 1- 1- 0- 1/ 4    0.0%  25.0%  50.0%   2.7%
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もう圧勝です。アポロと同様、管理する厩舎の勝浦騎手騎乗シェアも併せて調べてみました。ビスティー馬の管理厩舎は伊藤大厩舎、大江原厩舎、大竹厩舎、尾形厩舎、清水英厩舎、藤原辰厩舎、藤原英厩舎、成宮厩舎、松山将厩舎、矢作厩舎。勝浦騎手が本格的にビスティー馬に乗り始めた2008年以降について見てみるので、2006年で解散した成宮厩舎は除外します。

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調教師    着別度数              勝率  連対率 複勝率 シェア 順位 ビスティー率
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大竹正博  0- 0- 1- 0- 0- 0/ 1    0.0%   0.0% 100.0%   0.8%  24        100.0%
矢作芳人  0- 1- 0- 4- 1- 5/11    0.0%   9.1%   9.1%   1.5%  21         90.9%
伊藤大士  0- 0- 1- 1- 0- 3/ 5    0.0%   0.0%  20.0%   7.1%   3         60.0%
松山将樹  1- 0- 1- 0- 1-14/17    5.9%   5.9%  11.8%   4.8%   3         58.8%
大江原哲  1- 2- 0- 0- 0-15/18    5.6%  16.7%  16.7%   4.3%   8         55.6%
尾形充弘 10- 6-11- 3- 2-31/63   15.9%  25.4%  42.9%  13.1%   1         23.8%
藤原辰雄  5- 4- 6- 2- 3-31/51    9.8%  17.6%  29.4%  15.5%   1          0.0%
清水英克  0- 0- 0- 0- 0- 7/ 7    0.0%   0.0%   0.0%   1.7%  12          0.0%
藤原英昭  0- 0- 0- 0- 0- 1/ 1    0.0%   0.0%   0.0%   0.3%  26          0.0%
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 ※順位は厩舎内での勝浦騎手の占める順位。

主戦を務めている藤原辰厩舎でビスティー馬の騎乗がありませんが、藤原辰厩舎管理のビスティー馬は2008年春に入障したホットビスティー号のみなのでビスティー率ゼロも致し方なしか。象徴的なのが矢作厩舎ですよね。矢作厩舎のビスティー馬が関東に遠征する際は、以前は内田騎手が騎乗したこともありましたが現在はだいたい勝浦騎手です。当然ご指名でしょう。ビスティー率からいっても、実質ビスティー馬でしかつながっていない関係です。
とこのように、数字で見ると勝浦騎手依存は明らかなのですが、はっきりしたきっかけというものが読み取れないのですよね。乗り始めの頃にバロンビスティー号で9番人気1着という成績を残していますが、未勝利戦ですし。むしろそのままバロンビスティー号で500万下以上の競走の入着を果たしたというのが大きいのでしょうか。今まで新馬未勝利でしか3着以内がない馬主にとっては、500万下でも3着に入ると嬉しいでしょうし。


猪熊氏のときも同じようなことを書いたと思いますが、馬の質はともかく、こうしてバックアップというか、気に入ってわざわざ指名で乗せてくれる馬主の存在というものは騎手にとって本当にありがたいものなのだろうと想像されます。騎手は騎手でその期待に応えようと努力するでしょうし、それが良い循環になれば言うことなしですね。今のところ勝浦騎手はアポロもビスティーも、まあまあ期待に応えられている状況。今後も良好な関係が続くとよいですね。もっとも、あまり縛られて他の有力馬に乗れなくなるのも騎手にとっては困りものですが。それにしてもエイシンのお気に入り、トーセンのお気に入りならともかく、アポロにビスティーはえらいニッチなところですよねえ。まあそういった筋に気に入られるのが勝浦騎手らしいのかなとも思います。

*1:秋華賞のダイアナバローズ号も角田騎手のようですね